『ヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)』近代建築の巨匠ライト設計の大正モダニズム空間

近代建築の三大巨匠である『フランク・ロイド・ライト』をご存知でしょうか?ライトは、20世紀最高の建築の巨匠とも言われ、日本にも作品を残しています。 ほぼ完全な形で残っている建築が国内では『自由学園明日館』と『ヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)』の2つのみ。今回はそのうちのひとつである『ヨドコウ迎賓館』をご紹介します!!

フランク・ロイド・ライトとは?

フランク・ロイド・ライトは、1867年アメリカで生まれました。 建築家を志し、大学に入学しますが中退し、設計事務所で経験を積みます。 独立後、最初にウィンズロー邸を建築し、一躍有名建築家の仲間入りを果たします。

ライトの建築の特徴は、『有機的建築』であるということ。『有機的建築』というのは、土地を活かし、自然の景観を損なわないように配慮した、自然との共存を目指した建築のことです。
「機能性や建物の景観さえよければいい」という考えではなく、自然と融和することこそ、より豊かな人間性に繋がると考えたのです。 ライトは、『自然界に存在するものは、生きるために必要な部分だけでできており、建築するというのは自然から教えられたものを大自然の中に返す行為なのだ』と語っています。

ヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)について

ヨドコウ迎賓館は、関西の高級住宅街として有名な兵庫県芦屋市にあり、大正末期に山邑家の別邸としてライトによって設計されました。そして、1974年には国の重要文化財に指定されています。
山邑家は、神戸・灘の酒造家で、当時の当主8代目太左衛門は、ライトの弟子である遠藤新を通じてライトに設計を依頼しました。 山邑家の別邸として使用されたのち、他の人の手にわたり、ヨドコウ(株式会社淀川製鋼所)社長が購入しました。その後も賃家になったり、ヨドコウの独身寮になったりしますが、実は、取り壊しの危機にもあっているのです。1971年、同邸を取り壊して、マンションにしようという計画がててられた際に建築家たちの間で反対運動が起こり、結果的に国の重要文化財に指定されることになったのです。

ヨドコウ迎賓館の見所

ヨドコウ迎賓館は、芦屋川が眼下に見下ろせる高台に建っています。緩やかな斜面で、南北に細長い敷地に、ライトは非常に興味を抱きました。

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外観

ヨドコウ迎賓館もまさに『有機的建築』で、自然の地形を生かした設計になっています。 建物全体は、4階建てですが、斜面に沿って階段状に各階がずれて重なっているので どの断面をとっても、1階か2階のつくりになっています。

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エントランスにある車寄せに到着すると、雄大な景色が見渡せます。

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正面から見ると、左右対称になっています。 左右対称の構図は、ライトの特徴でもあり、内観も左右対称の構図がたくさんあります。

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内外装に多く使われているこの石は大谷石(おおやいし)といい、栃木県宇都宮市で採掘されています。ライトは、この大谷石を気に入っており、日本での建築の際に多く用いたと言われています。大谷石はやわらかく加工がしやすいため、ライト独自の幾何学的な装飾模様を彫り込むのに適していたようです。

応接室

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ヨドコウ迎賓館のメインである応接室も、左右対称なつくりになっています。

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窓やドア、欄間等に用いられている 緑色の飾り銅板は、植物をイメージしたもので、緑青というサビを意図的に発生させています。いたるところに全部で約200枚の飾り銅板があります。ライトは各建物ごとに象徴を作っていたそうで、この飾り銅板がのヨドコウ迎賓館の象徴と言えるでしょう。

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応接室の照明には、幾何学模様が入ったリボンが巻かれています。人が多く出入りするところにある照明には全てこのリボンが巻かれており、人目を意識した演出になっています。

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暖炉もあります。この暖炉に使われているのも先ほどご紹介した大谷石です。大谷石は耐火性もあるそうです。

和室

和室もあります。
yodoko-1910-13.jpgライトは建設前にアメリカへ帰国。この和室の設計には関わっていませんが、弟子たちがライトの意を汲み取り、飾り銅板を欄間に使うなどの工夫を凝らしました。

家族寝室

3階家族寝室には、竣工90周年を記念して復元した、竣工当時の机と椅子を展示しています。
yodoko-1910-7.jpg机と椅子は、実際に座ることもできます。yodoko-1910-6.jpg机の足の部分が独特な作りになっていて、こだわりが感じられます。

廊下

廊下には一面に窓があり、飾り銅板が取り付けられています。非常に窓が多く、いくつもの窓があります。空気の入れ替えがしやすく、光を取り込みやすくするためでしょう。yodoko-1910-12.jpg
夕暮れ時には、窓から西日が差し込み、飾り銅板と相まって幻想的な空間になります。
yodoko-1910-5.jpg廊下に、飾り銅板の影が映ります。時間やその日の天気によっても影の出来方が全く違うので、それも面白いところです。yodoko-1910-4.jpg

食堂

4階には食堂があります。 食堂も左右対称なつくりで、非常に独創的です。yodoko-1910-8.jpgなんと言っても、この天井がポイント。yodoko-1910-9.jpg壮大なデザインに圧倒されます。 寝っ転がって写真を撮る人もいるようです。

バルコニー

4階の食堂から、そのままバルコニーに出ることができます。yodoko-1910-11.jpgバルコニーからの景色は壮観! 後方には山、南には住宅街、その先には海を見渡すことができます。yodoko-1910-10.jpg高台に建っているので、何にも遮られず、芦屋のみならず、大阪から淡路島までを見渡すことができます。夜は夜景が楽しめるそうです。

まとめ

ライトのこだわりがつまった『ヨドコウ迎賓館』。自然豊かで落ち着いた場所に、それを生かした美しい建築で、心洗われるような清々しい気持ちになりました。 斜面に沿ってつくられているので、邸宅のいたるところに数段の階段があり、今何階にいるのかわからなくなってしまうような、迷路のような楽しさもありました! 現在、ライトの作品はアメリカの8作品が世界遺産に登録されていますが、この『ヨドコウ迎賓館』も将来的な追加登録候補と言われています。ゆっくりと鑑賞するなら今のうちかもしれません!

この『ヨドコウ迎賓館』は、現在開催中のあしや芸術祭の会場にもなっています。 2019年11月2日〜4日まで、世界的ファッションデザイナーのコシノヒロコさんのアート作品の展示を行います(入館料500円)。 同館の雰囲気に合わせた展示を行うそうで、ライト建築とコシノヒロコさんのアートを同時に楽しむことができます。